「お茶とレアグルーヴ」
小林径インタビュー


ECDに「マスvsコア」って名曲あるけど、「マス」と「コア」って DJやオーガナイザーにとっては切実な問題。クラブ音楽としては、 オルタナティヴに位置付けられるレアグルーヴ系イベントRoutine、Free soul undergroundというムーヴメントの源流の中心、小林径さんにそのあたりを求めてfai@青山に。話はなぜかお茶を通したレアグルーヴの心に。染みるなぁ〜(笑)

インタビュー&構成:倭月wacky@amy.hi-ho.ne.jp

*このインタビューは1998年10月にJCMN presents Carnibal Mix '98のフリーペーパーに収録されたものに加筆修正したものです。






●布袋(寅泰:元Boowyのギタリスト)さんと同級生だったとか?

それから入るの?(笑) いや、同級生というか俺のちょっと上だった。


●布袋さんのネタ師だったとか?

ネタ師だったというか俺が色々教えてやったんだよ。 あいつによ。 だってそれはBounce(タワーレコードのフリーペーパー)見ればはっきり分かるよ。 俺と布袋の力関係は。 布袋と対談やってるんだよ。 向こうが敬語でおれが違うかなって(笑)


●あははっははははははは!

ていうか、バンドやってて、俺があいつを最初にバンドに入れたんだよね。


●どんなバンドやってたんですか?

なんかねぇロキシーミュージックのコピーとかね、そういうのやってたんだ。 ちょっとオシャレ系で。


●あのころに!

あの頃だから早いよ。 みんな(レッド)ツェッペリンとか(ディープ)パープルみたいな奴しかいなかったから。


●ロキシーなんてけっこう後になって評価された人達だったでしょ。

そういう相変わらずながらマイノリティー志向なんだよ。ガキの頃から。


●(爆笑)それって高校生の時でしょう。

そうそう、だって中学生の時から結構変な現代音楽とか聞いてたもん。 だから、布袋がその対談でブリジッド・フォンテーヌとかを径さんから教わったって言ってたもん。 クラフトワークとかフェラ(・ランサム・クチ)とかも。 フェラとかって俺そのころ買ったの掛けてるもん。ちゃんと。ゾンビーとか。 日本盤の。 リアルタイムなんだよ。


●クラフトワークとかは僕とかでも聞きましたけど、ブリジッド・フォンテーヌなんて最近になるまで聴けませんでしたもん。なんだこれって。

ひねくれたガキだった。すげーひねくれてた。中学生で親の金盗んで100枚くらいレコード買ってたもん。


●親がなんかそういう関係だったんですか?

じゃなくて、うちの親が物書きだったんだよ。だから環境はあったんだよ。似非(えせ)芸術家とか集まってて。学校の悪口とか言ってるんだよ。俺は子供なのに。いまの学校最悪とかね(笑)


●その頃ってどんなところから情報仕入れてたんですか?

やっぱり、その頃はミュージックマガジンやロックマガジンってニューウエイヴ系の雑誌があって、そのへんかなぁ。


●ニューウエイヴががーっと来る直前ぐらいっすね。

その前からだね。リアルタイムはほんとグラムロックの頃なんだよね。歳ばれちゃうけど(笑)


●そんなとんじゃってると友達とか出来なかったんじゃないですか?(笑)

そんなことは無かったけど、やっぱ変わってるとは言われてたよね。


●僕なんかもちょうど中1くらいのときにタンジェリンドリームやクラフトワークが出てきたころで、やっぱりマセガキがいてこれいいんだぞって聞かせてくれるんだけど、クラフトワーク以外はぜんぜんぴんと来なくて、、、

どっちかっていうとタンジェリン系と別れんじゃん。カンとかクラフトワークとかノイとかリズムある系いうか、叙情系は同じジャーマンでも好きじゃなかったね。


●やっぱり。その頃からあんまり嗜好は変わってないんですね?(笑)

俺レアグルーヴとか言ってる割にスティービー・ワンダー掛けたりするじゃん。だけど、ほんとにスティービー・ワンダーってリアルタイムで、俺なんかのころって別にプログレ聞いてたからってスティービー・ワンダー聞いちゃいけないとかって無かったじゃない。だからその頃の名残なだけなんだよね。だから全然自分の中では割り切れてるんだけど、今の若い奴は(音楽が)細分化してるのが当然だって思っちゃってるから、そこの考え方の違いで、良く言われるよ、地方とか言っても、、、、


●今日の径さん違いますねって?(笑)

だから、そこの認識の違いなんだよね。そういう彼らはレアグルーヴって言ったらレアグルーヴしか掛けちゃいけないって認識あるんだよね。俺は別にいい曲っていうだけしか最初からないから。


●でもロックウエスト(当時新宿)でフリーソウルはじめてからって柔らかい曲が多くなりましたよねぇ。

あれはまぁフリーソウルってのもあるけどね。


●やっぱり意識して?

っていうか、踊らないからね。フリーソウルの奴はレアグルーヴで。(笑) フリーソウルは入って後悔したときもあったけどね。


●ぎゃははははははははははははははは。

いや、あまりにもそうだから。あまりにもメロディーラインでしかなんか、、、途中までそうじゃ無かったじゃない。


●インク(スティックDJバー:渋谷にあった伝説のクラブ)のときはまだぜんぜん違いましたね。

オルガン(バー)入ってからはなんかさぁ、H君も妙に変わらなくなっちゃたからぁ・・・


●Hさんってあのときから止まっちゃいましたよね。

なんかねぇ、妙にね。Fもそれで辞めたらしいよ。実は。


●僕ら素人が聞いてても「ええええ?Hさ〜〜ん」って思いますからねぇ。こんな事は書けませんけどねぇ。

書いちゃえよ。


●(大爆笑)でも径さんが看板背負ってフリーソウルやったのにはびっくりしました。

いや、そういう訳じゃなくてあれはロックウエスト流行らせないといけなかったから(笑) そりゃ給料貰ってる身ですよ。 DJの経済は大変なんですよ!(笑) たとえば、なんか金持ちの息子かなんかで家賃収入かなんかで食ってれば、もうちょいドープにはなってるよねぇ。 まぁ、その微妙なところはあるけどね。別に嫌いな曲掛けてる訳ではないから。 そりゃまずいっすよね。 嫌いなものは掛けちゃいけないよね。 絶対に。


●今回僕みたいに大きいイベントやるときに難しいのは、自分自身がちょっとコアな嗜好なんだけど、集客を考えると多少は柔らかいR&Bとか歌ものは入れてかなきゃいけないしっていう・・・

ま、いろんなもの入れていった方がいいっすよね。ある程度の人数になるんならね。でも、それだからまた、なんつーのネガティヴっていうことではないだよね。その中でクオリティー高い奴もいれば低い奴もいるからぁ。R&Bとかって馬鹿にされてんのはR&BまわすんでめちゃくちゃいいDJがいないからですよ。ホントにかっこよく、俺なんかが女連れて行きたいみたいなDJいたら・・・・


●そうそう!それ大切っすよね。

だっていい曲いっぱいあんじゃん。En VogueのGive It Up,Turn It Loose(アルバムFunky Divas 収録)とか大好きだから。


●おおおお!いいっすね。

ああいう曲をああいう感じで回してくれるDJって居ないっすよね。なんかベタな回し方になるんだよ、R&Bって。


●こんど、径さんR&Bナイトとかやってみたらいいんじゃないすか?(笑)

いや、俺やったらぜんぜん巧いっすよ。(笑)俺と二見君が本気であの辺回したら巧いっすよ。二見君のメローグルーヴってほんといちばん趣味合うからね、俺と。あいつのプライベートテープとかよく作って貰って、、、


●えええ?そんなテープの作りっこなんかしてるんすか?

いや渡しっこしてるわけじゃなくて、一方的に作って貰ってるんだけど、、、ちょっとギャル用に作ってくれって、はい、いいっすよって、いやぁ前に作ったこれでいいっすかぁ?って。それでほんとに女の子の評判いいんだよね。


●二見さんがまた作ってるところが可愛いっすね(笑) そういう意味ではfaiに移って径さんらしくて面白いなぁって

前より俺らしくやれてるなぁって、アルテックのスピーカーいれて生音がいい感じで、その辺が映えるような感じに徐々に。。。 webとかroomとかと同じ事やってもしょうがないから、ああいうのあるから。 どうしてもだぶっちゃうんだけどオルガンとかああいうのに面子とか。 だけど、もうちょいなるべくそういう生音よりみたいなね。


●そうそうAORとかって掛けてるところ少ないですもんね。

青山とかだしいいかなぁって。


●でもやっぱり面子が決まっちゃってるってのが凄い気になってて、どこいってもゲストが小西(康晴)さんで、小林径さんでみたいな・・・ゲストのラインナップみてもワンパターンで、なんで若い人が出てこないのかなぁって。



若い人なんかが出てきてくれた方が俺なんかも嬉しいんだよね。 俺らが出ないようにしてるってたまに変な事言う奴いるんだけど、全く誤解で、むしろ出てきてくれた方が都合が良くて、地方営業とか連れてけるでしょ、安く(笑) だからぁ、ホントは欲しいんだよね、そういう奴。


●なんで出てこないんですかね?

んんん、なんか冴えがないんだよね。 真似してる奴等ばっかじゃないすか。 それだけですよね。 だって俺なんかの頃だって藤原ヒロシの真似みんなしてたからね。 ぜんぶ藤原ヒロシなのよね、選曲が。 どこいっても藤原ヒロシね。


●藤原ヒロシねたってのがありましたね。

(シェリル・リンの)Got to be realの(フェーダー左右に振る仕草で)トゥ〜ビリッリッリッリッリッリとかね。


●懐かしいですねぇ。ホント流行ってましたねぇ。

あれみんな同じにやんだよなぁ。(笑) だからさぁ、そのころそういうコピーしてた連中が消えてるんだよ。 ぜんぜんやってなかった(藤井)悟君とかラファエル(・セバック)とかそういう奴しか残ってないよ。


●そういう人が集まってる箱ってのがあったじゃないですか。霞町一帯。

(P)ピカソとかトゥールズ(バー)とかバブリンダブとかね。 俺はバブリンだからね。


●そうそうこないだ久々にFunk Master Go-Go(当時、径さんらのユニット)聞いちゃいましたよ。

やだなぁ。


●あれも濃いですよね面子。

濃いよね。木村コウ佐々木潤とか。


●小林径とかこのユニットがどんな音だったか今の人には想像できないですもんね。

やっぱりあの辺にいた人達ってのが残ってるんですよね。 だから今だと、Moochyとかそういう奴でしょ。若手のホープは。明らかに違うことやってんじゃん。違うことやんなきゃ駄目だよね。いつの時代にも。


●レアグルーヴとかみんなすごい狭い解釈しちゃってますよね。

そりゃホントそうだね。いつも言い続けてるんだけどね。みんなレアグルーヴって知らないくせにさぁ、レアグルーヴとか、レアグルーヴじゃないんですかとか言うからむかつくよねぇ。いちばんだってむかつくのはさぁ、ジャクソンシスターズをノーマンジェイが掛けててさぁ「ノーマンジェイ、ポップ過ぎません?」ってあれノーマンジェイが最初にかけてたんじゃない。ノーマンジェイのクラッシックなんだよね。Miracleってのは。


●いまノーマンジェイのホームページがあって彼のプレイが聴けるんですよ。野外で延々3時間。

あああ、それどんな選曲だった?


●メインはガラージュよりのあの辺の音なんですけど・・・

チャカ・カーンとか、ハイ・エブリ・ウーマンとか、アイ・ワズ・サンキューとかファミリーツリーとか、ああいうやつね。


●それが1時間ぐらい続くと定期的にノーザン・ソウルの辺りからレアグルーヴて言われる辺りがちょっと流れるんですよ。またずうーっとガラージュで。

あの人もうパターンですよ。ずうっと変わんないっすね。


●でもあれで耳が新鮮になって延々踊ってられるんでしょうね。その間、ずっと喋り続けるのね(笑)

MSFBのガーシュインで始まって、キザだよねぇえ。ああいうの大事だよね。ああいうのが出来ないじゃないですか。素人のDJって。雰囲気で負けちゃうじゃないですか。ああやられたりすると。


●径さんにとってそういう曲ってあります?

まぁ、僕はわりとJBsとかで始まる事って多いよね。 でもね、俺ってノーマン・ジェイもあるんだけど、ジャジーBの影響の方が大きいと思うよ。多少ね。そんなにDJスタイルに影響に無いんだけど、強いて言えばジャジーBはあったと思いますよ。


●てっきりノーマン・ジェイだと思ってましたが・・・

以外とノーマン・ジェイかなって思われるんだけどやっぱりジャジーBなんだよね。ファンキードレッドってやつね、それもね。Soul 2 Soulの前だよね。それが要するにBPMが遅いファンクばっかりだったんだよ。遅くてかっこいいっていう、だけどレゲーじゃないっていう、レゲーだとノリが葉っぱになっちゃうじゃないですか。なんつうんだろう、遅いけど、ミドルだけど、アッパー。微妙にアッパー。


●でも気持ちは昂ぶってるっていう。

そうそう。気持ちは昂ぶってる、、、あれが自分の影響受けたものだよね。やっぱ、その前はニューウエイヴとか聞いてる人間だからさ、早いのがかっこいいじゃないけど、ただそう言うのが当たり前の感じがあったから。のろくてこんなかっこいいんだ。しかもレゲーとはまた違うみたいな。その微妙さが凄いみたいな。In the middleって言葉あるじゃないですか、ほんとそれですよね、自分が影響受けたのはね。だから、それに異常に固執しましたよね。この10年くらいはね。最近また、若干早くなりましたけどね。BPMは流石に。


●インクの頃って盛り上がれば盛り上がるほどんどん落ちていきましたよね。それがすごい気持ち良いいいいってのがありましたよね。それが好きだったんですけどね。径さんて。

それがいま通用しないんだよね。何処行っても。


●どうしてなんですかね。

なんかそういう流れがあるんだよ。人間の。目に見えない。最初はずっと逆らってたんだけど、もうオルガンで外すようになっちゃって。3年前くらいに。それやってたら。やっぱDJって外しちゃ駄目なんだよ。それでやっぱスランプ気味でそんときに二見君に径さんBPM遅いなんて誰も、気にしてないっすよ。客なんて。って言われて逆に吹っ切れたんだよ。 あああ、そんなの俺だけのこだわりだなって思って、BPM遅いことに固執するあまり逆に選曲が崩れてたんだよ。かえってポップになっちゃったりとか。ちょっと早くしたことでいまは前よりレアな曲入れられたり逆にもっと落とせるようになったり。そういう野球じゃないけどスライダー一個の曲がりがホームランになっちゃうとか微妙なもんですよね。変なことにこだわり過ぎて背負ったんだろうなって。その辺の時期はね。 お茶の方にはまってレコード買ってなかったってのもあるけどね。


●レコード買ってなかったんですか?

そう、買ってなかっていうかお茶にはまって1千万くらい使ったから。厳しい時代だったよ。(笑)



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